「手紙は憶えている」から考える認知症患者の記憶



「手紙は憶えている」では主人公が認知症のため記憶が曖昧であるということで生じる様々なトラブルを巧みに取り入れたサスペンスとなっています。

日本でも特に高齢化社会にシフトしつつある中、自分の親戚や知人が認知症だと言う人も少なくはないのではないでしょうか?
そこで今回は認知症の実際について、映画のエピソードを交えつつ紹介していこうと思います。

認知症とは?

様々な原因で脳細胞の働きが悪くなったり活動しなくなったりすることで生じる脳機能障害の全般のことを言います。最も多いのがアルツハイマー型認知症で、これは脳が萎縮してしまうことで圧迫された脳の部位の活動が影響を受けるというものです。
かつて日本では痴呆症と呼ばれていましたが、2004年より認知症という呼称で統一されています(「痴呆」に替わる用語に関する検討会, 2004)。
認知症=記憶がなくなる、と思われがちですが、もう少し広義のもので症状も人により様々だということですね。

認知症の症状

多くの認知症と診断された患者に共通しているのが上記のイメージのような記憶障害です。記憶は、その保持時間によって短期記憶長期記憶に分けられるのですが、短期記憶の方がより影響を受けやすいということが知られています。
ちょっと前に聞いたことをすぐに忘れてしまうといった傾向が見られやすくなります。
短期記憶に影響が大きく見られる理由の1つとして、新しい情報を記銘することが難しいとも言われています。これは認知症ではなくとも中年期、老年期と加齢してくることで一般的に見られる傾向で、新しい情報を書き込みづらい上に、思い出すのも難しいのが認知症の症状と言えます。

「手紙は憶えている」では、序盤でセヴがあるものを購入しますが、その使い方をしきりに「紙に書いて欲しい」と言っているのにはこういった理由があるわけですね。

長期記憶は、その内容によってさらに宣言的記憶手続き的記憶に分類されます。宣言的記憶には、意味記憶エピソード記憶の2種類があり、意味記憶は「太陽は東から昇る。」とか「リンゴは赤い。」といった事実に基づく記憶のことで、エピソード記憶は、「子供の頃家族と旅行にいった。」とか「昨日の夜お寿司を食べた。」といった自分に関する出来事についての記憶になります。
認知症の症状としては、エピソード記憶でも特に最近のものは忘れやすい一方で昔の記憶は正確に覚えていたりもします。

「手紙は憶えている」でも、最愛の妻が亡くなったことは忘れてしまいがちですが、クリスタル・ナハトのエピソードを詳しく話していたりと昔のことは鮮明に覚えていたのかもしれませんね。

一方で、手続き的記憶は、たとえ認知症になったとしてもしっかりと保持されている場合が多いです。

「手紙は憶えている」では、セヴがピアノを弾くシーンがありますが、これは手続き的記憶に含まれますので、覚えていたとしても不思議はないのです。

認知症はさらに症状が重くなると、自分のいる場所や、今の日時、家族や友人など特定の人物がわからなくなると言った見当識障害が見られるようになります。
セヴはあまりそういった傾向は見られなかったので比較的軽度なレベルなのかもしれませんね。

さらに重度になると、幻覚や妄想、徘徊などの行動、抑うつや不安といった状態になることも知られています。
マックスがセヴに手紙を託したのも、もしこれより遅ければセヴは使命を全うできないと考えたからなのかもしれません。

最後に、最近のエピソード記憶が保持されにくい、ということに一石を投じた研究を紹介します。
Kazui, et. al.(2000)では、認知症の患者に、ある母親が自分の息子を連れて父親の職場を訪ねるという場面を写真とともにストーリーとして説明し、その途中で、「防災訓練をしているシーンを見かける」という感情喚起低条件と、「息子が事故にあい医者が懸命に救おうとしている」という感情喚起高条件で、どちらのエピソードが記憶に残るかを調査しました。
その結果、感情喚起高条件においては、健常者と比較してもあまり劣らない結果となりました。つまり印象が強かったり衝撃が大きかったりする出来事については、たとえ認知症であっても情報を記銘したり、思い出したりすることが可能だということなのです。

記憶を失いつつあるゼヴに最後に残っていた心象風景はいったいなんだったのでしょうか?
願わくば、幸せな思いでがあらんことを!

[引用]
「痴呆」に替わる用語に関する検討会(2004). 「痴呆」に替わる用語に関する検討会報告書.

H., Kazui et al(2000). Impact of emotion on memory Controlled study of the influence of emotionally charged material on declarative memory in Alzheimer's disease, British Journal of Psychiatry, 177, 343-347.
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「手紙は憶えている」感想。


(公式HPより引用)

[story]
ゼヴ(クリストファー・プラマー)は認知症が悪化の一途を辿っており、今では先日最愛の妻が亡くなったことさえ忘れてしまっていた。ある日ゼヴは友人のマックス(マーティン・ランドー)から1枚の手紙を託される。そこには記憶が曖昧な彼のために彼が何をなすべきなのかが書き記されていた。手がかりとなるのは"ルディ・コランダー"という名前のみで、ゼヴは手紙とわずかな記憶を頼りに、この男を探す旅に出るのだが・・・。

「スウィート ヒアアフター」「白い沈黙」のアトム・エゴヤン監督による、認知症の老人を主人公に配した異色のサスペンス。
主演は「人生はビギナーズ」のクリストファー・プラマー。

アトム・エゴヤン監督作は寓話的な要素を取り入れたサスペンスといった作風のものが多い印象がありますが、本作もその路線です。
主人公の記憶が保持できないということを題材にした作品は、記憶が10分しか続かない男の運命を描いた「メメント」が代表的ですが、本作では認知症のため、記憶がおぼろげになっているという点が1つのキーワードです。

「メメント」ではインスタントカメラで撮った写真とそこに残したメモ、それに全身に入れたタトゥーを記憶の拠り所としていましたが、本作では友人マックスの手紙が記憶のトリガーとなっています。
そこに書かれているのは、

1. ゼヴとマックスはナチスの強制収容所の生き残りであること。
2. 自分たちの家族を殺したナチスの男は"ルディ・コランダー"という名前で今もどこかで普通に暮らしているということ。
3. ゼヴは足の悪いマックスの代わりに復讐を成し遂げること。

でした。

そこでゼヴは、ルディ・コランダーを探す旅に出るのですが、"ルディ・コランダー"と名乗っている男は全部で4人います。そのためゼブはたとえルディ・コランダーを見つけたとしてもはたしてその人が復讐の相手なのかがわからないわけです。
そこでゼヴはルディを見つけたら、当時のアウシュヴィッツの話題などをして相手の出方を探るのです。
あるルディには、「アウシュヴィッツにいたことはあるか?」と直接的に聞いてしまったりもしています。
そのルディが「いたよ。」と答えたことに対してゼヴはどうするのか?

また別のルディの家を訪れたときは、そのルディはすでになくなっており、その息子ジョンが対応してくれます。父親の友人だと偽ったゼヴを歓迎するジョンでしたが、ゼヴが話したクリスタル・ナハト(ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害のきっかけとなった事件)のことに異常なまでに興味を示すジョンに違和感を覚えます。やがてこのルディはナチスのコックとして働いており、その息子のジョンもナチス信奉者であることが分かります。
ゼヴはどうなるのか?

そしていよいよ復讐の相手であるルディの家にたどり着くわけですが、そこは立派な家で娘や孫と幸せに暮らしているようでした。
ルディがくるまでその家にあったピアノに目をやるゼヴ。やがてゼヴはピアノを慣れた手つきで演奏します。
曲は、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の一節でした・・・。

といった流れですが、とにかく本作は主人公の記憶が曖昧である、というのが肝となっています。その原因となっているのは認知症ですが、認知症は完全に記憶がなくなるというわけではありませんし、状態の良いときは極めて鮮明に記憶を思い出したりすることもあります。
その危うさこそがまさに本作のサスペンスフルな展開に一役買っていると言えます。

そうして迎える衝撃のラストはぜひ自分の目で確かめてほしいと思います。
道中でところどころに結末につながる展開が描かれているのも極めて技巧的な緻密な作品であるとも言えます。

最後に、邦題こそ「手紙は憶えている」となっていますが、原題では単に「Remember」のみになっています。
ぜひ、映画をご鑑賞後に、この原題の意味を考えてみることをオススメします。

MOVIE OF THE YEAR 2016 <洋画編>

先日の邦画編に引き続き、2016年の最も印象に残った映画10本をご紹介したいと思います。
邦画同様、いやソレ以上に洋画も傑作揃いで、10本に絞りきれない!っていうのが本音ですが、行ってみましょう!


「オデッセイ」



「火星の人」をリドリー・スコット監督、マット・デイモン主演で映画化したのが本作です。火星の有人探査計画の途中で他のクルーとはぐれ、1人取り残されてしまった宇宙飛行士の運命を描く。
火星に1人だけ、しかも自分は死んだと思われているので救助が来ることはない、生存のための食料も酸素も限られている・・・というどこの誰と比較しても明らかに一番絶望的な状況にもかかわらず、全くめげることなくポジティブどころか、ユーモアを絶やさないというキャラクターがとにかくスゴイ!この1年はそのポジティブさにだいぶ元気づけられた気もします。
原作は未読なのですが長編をうまくまとめている印象でした。
落ち込んだり、後ろ向きになったりしている人にはぜひ見てほしい一作!


「ズートピア」

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ディズニー製作のアニメーション。肉食動物も草食動物も分け隔てなく暮らしている楽園ズートピア。ウサギとして初めて警察官になったジュディは、自分の力量を示すために詐欺師のニックとともに連続失踪事件の謎を追うのだが・・・。
ジュディやニックはもちろん脇役キャラまでしっかりと個性があるのがなんといっても魅力的。それでいてストーリーもしっかりしていて純粋なミステリーとして楽しめる要素もあります。その背景に描かれているのはズートピアではないはずの偏見や差別という点においてテーマもしっかりしています。あらゆる面で非の打ち所がない作品でした。
またしてもディズニーから傑作が誕生しました。

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「シング・ストリート 未来へのうた」

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「ONCE ダブリンの街角で」「はじまりのうた」のジョン・カーニー監督が、自身の実体験をベースに作り上げた青春ムービー。父親の失業で公立校への転校を余儀なくされた少年コナーだったが、ある日モデルを目指す女性ラフィーナと出会い、「自分のバンドのミュージック・ビデオに出てくれないか」と言ってしまう。そこで急きょバンドを結成することになり・・・。
「ONCE~」同様、不況下のダブリンという閉塞感のある土地で、音楽に希望を見出す姿は思わずエールを送りたくなります。劇中に出てくるミュージック・ビデオも必見。かつて少年少女だった全ての大人に捧げる青春賛歌!

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「デッドプール」

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マーベルヒーローの中でもひときわ異彩を放つ問題児"デッドプール"の活躍を描くSFXアクション。これまでのヒーロー像とは180度逆を行く路線に釘付け。とにかくもうよく喋る!劇中では飽き足らず映画を見ている人にすら話しかけるという型破りなスタイル!話す内容も映画のグチ、アメコミへのツッコミ、自虐ネタ、メタなツッコミと変幻自在。悪ふざけもココまで来たら一級品。続編なんて絶対にないからな!

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「ルーム」

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7年間ある部屋に監禁された女性と、その間に生まれ外の世界を知らない息子との、決死の脱出とその後を描く。単純に脱出するまでの物語ではなく、むしろその後の親子の姿に焦点が当てられていて、環境に順応していく息子と、失われた7年間を取り戻せずに周りの変化に戸惑いを隠せない母親が実に対照的に描かれている。息子がはじめて外の世界を見た瞬間のシーンはひたすら感動です。

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「ゴーストバスターズ」

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1984年の大ヒット作のリブート。冴えないヘンテコな4人の女性がニューヨークに再び現れたゴーストたちと対決する様を描く。公開前から否定的な意見も相次ぎましたが、蓋を開けてみればかつてのシリーズにオマージュを捧げつつも新たな魅力もたくさん持っている極上のSFコメディとなっていました。クリス・ヘムズワース扮するおバカなケヴィンとケイト・マッキノンが演じるマッド・サイエンティストなホルツマンに釘付け!

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「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」

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「ハリー・ポッター」シリーズのJ・K・ローリングがハリーたちが使っていた魔法教科書の執筆者ニュート・スキャマンダーを主人公に、人間と魔法使いが共存する世界で巻き起こる騒動を描く。
後半に行くにつれてダークな世界観になっていった「ハリー・ポッター」シリーズの雰囲気もありながら、主人公ニュートのオッチョコチョイなところが存分に生かされているコメディとなっている。逃げ出してしまう魔法動物たちのなかでもキラキラ光るものに目がないニフラーが可愛すぎる!そしてニュートに巻き込まれて一緒に魔法動物を探しに行くジェイコブが魅力的!原作者も3部作の予定がノリノリで5作書いているとの情報もあり、新たなシリーズとして期待大!


「サウルの息子」

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強制収容所で同胞をガス室へ送り込む作業に従事していたゾンダーコマンドの姿を描く。閉塞感を表すビスタサイズの画面、主人公サウルの麻痺させたような感覚を暗喩する被写界深度の浅さ、など計算しつくされた手法でホロコーストの恐怖を描き切っている力作。一見常軌を逸しているようにも見えるサウルの行動の真意がわかった時、涙をこらえることができませんでした。
本作の感想をしっかりと書きたくて映画ブログを再開させました。自分の中ではそういう意味でも記念碑的作品でもあります。

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「死霊館 エンフィールド事件」

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「ソウ」「インシディアス」のジェームズ・ワン監督が心霊研究家ウォーレン夫妻の活躍を描くシリーズ第二弾。実話ベースということもあってドキュメンタリー風かつ70年台の雰囲気を感じさせる映像が怖さに拍車をかけています。夫妻に懐疑的な人もいたりしてホラー映画としては丁寧な作りに感心してしまいます。邦題はアレですが前作ともども真剣に怖い作品の一つです。

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「ドント・ブリーズ」

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盲目の老人の家に盗みに入った3人の若者の運命を描く。限られた登場人物で大半が老人の家の中というシチュエーションで、しかも襲ってくる側の人間が目が見えないという一見、映画になりそうもないような状況ながら、その状況を巧みに利用した新感覚のスリラーとなっています。構図や細部へのこだわりも感じられて、2016年最後に飛び出したサプライズの良作です。


というわけで2016年を彩った10本を選んでみました。
やはり洋画も非常に豊作だったのが2016年の特徴でした。

音楽系の映画としては、伝説のヒップホップグループ"N.W.A."の姿を描いた「ストレイト・アウタ・コンプトン」、急逝した歌姫の姿を追ったドキュメンタリー「AMY エイミー」、ブラジルのスラムで楽器の演奏を教えることになった音楽家の姿を描いた「ストリート・オーケストラ」などが高評価でした。

ファンタジー・アニメ系としては、言葉を話すクマの冒険を描いた「パディントン」、ひょうなことから外に置き去りにされてしまった2匹の犬が飼われている家へ帰るまでの冒険を描いた「ペット」あたりがオススメです。

実話ベースの作品としては、ほとんどが口論や議論シーンで構成された異色の伝記ドラマ「スティーブ・ジョブス」、実際の事件をベースに誘拐された息子を捜す親の姿を描いた「最愛の子」、神父による児童虐待というタブーに立ち向かった新聞社の姿を描いた「スポットライト 世紀のスクープ」、世界で初めて性転換に挑んだ男性(女性?)とその彼を支えた女性の姿を描いた「リリーのすべて」、ハリウッドにおけるアカ狩りの顛末を描いた「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」、バードストライクによる緊急事態を回避するべくハドソン川に不時着をしたサリー機長の葛藤を描いた「ハドソン川の奇跡」など、エピソードそのものがインパクトの大きい作品も多かった印象です。

アカデミー賞を沸かせた作品としては、上記の「ルーム」や「スポットライト~」以外でも、サブプライム・ローンの破綻を見抜いていた異端の投資家たちの姿を描く「マネー・ショート 華麗なる大逆転」、ケイト・ブランシェットとルーニ・マーラの競演が見どころにもなっていた「キャロル」、クエンティン・タランティーノが西部劇時代のアウトローたちによる裏切りの応酬を映画板密室ドラマ「ヘイトフル・エイト」、シアーシャ・ローナンが故郷を離れニューヨークのブルックリンでひたむきに生きる姿を描いた「ブルックリン」、そして、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督が息子を殺されたハンターが復讐のために大自然の脅威を生き延びるサバイバル「レヴェナント:蘇りし者」と素晴らしい作品がズラリ。

ホラー・スリラー作品も上記の「死霊館~」「ドント・ブリーズ」をはじめ、得体の知れない何かに追いかけられる恐怖を描いた「イット・フォローズ」、電気を消すと浮かび上がる謎の影に追われる恐怖を描いた「ライト/オフ」、かつての友人を名乗る得体の知れない男から届く謎のギフトに追い詰められる夫婦の姿を描いた「ザ・ギフト」など、アイデアを凝らした作品が目立ちました。

掘り出し物としては、富豪が若い肉体のクローンに記憶を移植したことで巻き込まれる陰謀を描いた「セルフレス 覚醒した記憶」、「きっとうまくいく」のラージクマール・ヒラニ監督とアーミル・カーン主演で贈る神様を探し求めてインド中をさまよう主人公の姿を描いた「PK」、フランス郊外の寂しい団地での人々のささやかながらも暖かい交流を描いた「アスファルト」などもありました。

異色作としては、孤独な女性リザが日本人歌手の幽霊によってひきおこされる不思議な事件を描いた「リザとキツネと恋する死者たち」、現代に蘇ったヒトラーがタレントとして人気を獲得していく「帰ってきたヒトラー」、スペインからドイツにやってきた女性が巻き込まれる事件を140分ワンカットで描ききった異色作「ヴィクトリア」、あるカルト教団の組織に監禁された恋人のために自らも信者として潜入する様を描いた「コロニア」、そして、擬人化されたスーパーの商品たちの冒険を描いた超弩級下品なアニメ映画「ソーセージ・パーティ」など、実に個性的でした。

そして、あの「スターウォーズ」のスピンオフ作品として、EP4の前日譚を描いた「ローグ・ワン スターウォーズ・ストーリー」にも触れねばなりませんね。
映画史に燦然と輝くスペース・オデッセイの影に埋もれてしまった人たちのストーリーとして仰々しくなるでもなくオリジナルをトレースしすぎるでもなく作られた本作も紛れもない傑作の1つです。


アカデミー賞の信頼度アップ?

ここ数年、作品賞候補の数が増えたこともあり、内外からの批判も少なくなかったアカデミー賞ですが、近年の候補作は作品としての価値はもちろん、純粋に楽しめる、考えさせられる良質な作品が多いように思いました。
上記の「ルーム」はじめ、作品賞受賞の「スポットライト~」、圧倒的な本命だった「レヴェナント~」、クエンティン・タランティーノの「ヘイトフル・エイト」など、どれも個性的で素晴らしい作品でした。
今年からアカデミー会員が大幅に増えるなんてニュースもありましたが、今年も良質な作品を紹介してくれることを期待しています。


アメコミ映画の趨勢

「デッドプール」という個人的には大のお気に入りの作品が登場した一方で、「バットマン vs スーパーマン」や「スーサイド・スクワッド」など、そのキャラクターや知名度とは裏腹に作品としてのデキは微妙だったものも多かった印象です。しかしながらこれらの作品はブロックバスター映画として興行成績がついてきていますので、今後も作られ続けていくことでしょう。
現在予告で流れている「ドクター・ストレンジ」は、早くもそのビジュアルが話題にもなっていますので、期待したいところですがどうでしょうか?


ホラー界はアイデアの宝庫?

盲目の老人が敵役という異色の「ドント・ブリーズ」に代表されるように2016年はアイデアの良さが際立ったホラー映画が多かったようにも思いました。
先述した「イット・フォローズ」「ライト/オフ」、そして「ザ・ギフト」など、単に音と光で脅かす作品ではなくなってきたのが嬉しい傾向でした。

洋画界は、"オデッセイ"に始まり"オデッセイ"に終わったのが2016年でした。
2017年も素晴らしい映画に出会えますように!

MOVIE OF THE YEAR 2016 <邦画編>

さてさて、2016年の最も印象に残った映画10本をご紹介したいと思います。
この年に観たのは全部で259本!
今年はなかなかに粒ぞろいで、選考委員会の方でもなかなかに絞りきれずにいました。わたし一人でやっているんですけどね。(;・∀・)

・・・

というわけで、まずは邦画編から!


「怒り」



「悪人」の李相日監督、吉田修一原作コンビ再び。ある殺人事件から1年後、千葉、東京、沖縄に現れた3人の男と彼とかかわる人々の姿を描いた人間ドラマ。
オムニバスのように描かれる3つの舞台で共通しているのは、タイトルにもある「怒り」。
その矛先は他者ではなく、他者を、とりわけ愛する人を信じきれなかったという自分に向けての怒り、愛する人を守りきれなかったという弱さに対する怒りでした。
最近歳のせいかだいぶ涙脆くなっているのですが、本作は気がついたら涙が溢れていたというこれまでにない体験をさせてくれた映画でもあります。
決して軽い話ではないのですが、ぜひ見てもらいたい作品です。

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「君の名は。」

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「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」の新海誠監督が、夢の中で入れ替わる男女の不思議な体験を描いたアニメーション映画。
もはや説明不要でいまだにロングヒットを遂げている本作ですが、予告編の作り、RADWIMPSによるテーマソング、都会と田舎という構図、男女の視点の差などの物語の骨子まで、全てにおいて完璧な一作だったように思います。
「叶わぬ想い」「薄れゆく記憶」といった新海誠監督のこれまでの作品のテイストを残しつつも誰にでも楽しめるという極上のエンターテインメントに仕上がっているのはただただ脱帽でした。

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「アイアムアヒーロー」

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花沢健吾の同名コミックを大泉洋、長澤まさみ、有村架純出演で実写映画化。さえない漫画家アシスタントの主人公が突如としてゾンビ化した人々からのサバイバルを描く。
ゾンビパニックに陥った世界の描写はこれまでの邦画の常識をくつがえす迫力です。
韓国でのロケということで様々な制約が取り払われたことにより、これまで実現できなかった迫力を映し出すことに成功したという点で、新たな可能性を示した1つの素晴らしき例となった作品でもあります。
原作からの改変、エピソードの選び方もよく、人気コミックの映画化のお手本のような作品。

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「何者」

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「桐島、部活やめるってよ」の朝井リョウによる同名小説の映画化。6人の若者がそれぞれの想いを胸に就職活動に臨む様を描いた群像劇。映画全編を通して効果的に使われるSNSがまさに現在進行系の就職活動の現状をリアルに描いています。
正直、今就活中の人には見せられないかも?
本作の予告編もまた「君の名は。」に並ぶ秀逸なデキで、良い意味で裏切られる作品。
さあ、僕らはどこ行こうか?

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「この世界の片隅に」

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戦時中の広島は呉に嫁いできたのんびり屋のヒロインが、物がなく苦境を強いられる境遇にめげずにつましくも明るく前向きに生きようとする姿を描いたアニメーション映画。
「君の名は。」とは対照的にクラウドファウンディングで製作・公開が決定し、少ない上映館ながらも話題を呼び、多くの人々を感動に包んでいるのが本作です。
本作のスゴイところは、戦時中という状況においても日常的なほのぼのドラマとして描いている点でしょう。戦争をしているからといって誰もが暗くわびしい生活をしていたのではないということが伝わってきます。だからこそ戦争の惨禍をより強烈なインパクトとして描くことに成功しています。


「海よりもまだ深く」

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「そして父になる」「海街diary」の是枝裕和監督が、小説家の夢を捨てきれないしがない探偵の男と、彼の元妻、母親との関わりを描く。樹木希林扮する母親の、自分の息子がダメ人間だとわかっていながらも、それでも大切な存在であることを存分に感じられる作品です。夢なんて叶わなくたっていい、ささやかな人生こそ愛おしい、そんなことを伝えてくれる人生讃歌でもあります。
是枝監督の優しい視点がひしひしと感じられてほっこりした気分にさせてくれます。
なりたかった大人になれなかった人全てに捧げます!

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「リップ・ヴァン・ウィンクルの花嫁」

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「Love Letter」「花とアリス」の岩井俊二監督がふとしたことから人生を踏み外してしまった女性の彷徨を描く。
黒木華のどうしてよいかわからずオロオロしているところ、綾野剛扮するどことなく怪しいけど頼りになる何でも屋さん、そして幻想の世界の水先案内人かのようなCocco扮する女性。
目を背けたくなる現実から夢とも現実ともつかない世界への誘い。絶望の果ての優しさとでも言おうか、SNS全盛のこの時代に改めて人と人とのつながりを描く力作。

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「青空エール」

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河原和音の同名コミックを、土屋太鳳、竹内涼真主演で実写映画化。監督は「陽だまりの彼女」「アオハライド」の三木孝浩。主人公の2人だけじゃなくて、それぞれの人がみんな誰かにエールを送っているという人のかけがえのなさを実感できる作品です。壁ドンもアゴクイもないけど、人が人の支えとなれることをド直球で伝えてきて、ありきたりながらも気がつくと涙が止まらない、青すぎる春の物語!

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「葛城事件」

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無差別殺人事件を引き起こした犯人の父親を中心に、家族の崩壊を描いた社会派ドラマ。一見理想的な家族が壊れていくさまをこれでもかと描ききったのは見事。事件後と事件前の2つの時間軸で描くことで、結末を知っている家族の幸せな風景が逆に痛々しい。そのほころびのきっかけとなるような出来事が明確なわけではなく、誰にでも、どんな家庭においてもふとしたきっかけで転がり落ちることがあり得るという雰囲気がして、そら恐ろしい作品。

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「貞子vs伽椰子」

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ジャパニーズ・ホラーの2大巨頭、「リング」シリーズの貞子と「呪怨」シリーズの伽椰子の世紀の対決を描いたホラー。監督は、「ノロイ」」「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズの白石晃士。
呪いのビデオを見てしまった友人を救うために奔走する主人公と、時を同じくして呪いの家に踏み込んでしまった女子高生の運命やいかに?
もう怖いとか怖くないとかじゃなく、圧倒的なエンターテインメント性を持つ作品として記録ではなく記憶に残る作品に。中でも貞子の呪いを解くために行われた霊媒のシーンは映画史に残ると言っても過言ではありません。呪いに打ち勝つためにはさらなる呪いしかない!

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というわけで2016年を彩った10本を選んでみました。
冒頭にも書きましたが、2016年は非常に良作揃いだったという気がします。
10本ということでなんとか絞りましたが、正直他にもいくらでも思いつくといった状況です。

「ハッシュ!」「ぐるりのこと。」の橋口亮輔監督が、閉塞した状況で何とか生きている3人の姿を描く「恋人たち」、古谷実原作で、V6森田剛のサイコパス役が強烈なインパクトを残した「ヒメアノ~ル」、これまた同名コミック映画化で、続編も製作決定している「ちはやふる」、横道世之介」の沖田修一監督が数年ぶりに帰郷した売れないロッカーと末期ガンに罹患した父親の姿を描いた「モヒカン、故郷に帰る」、「ゆれる」「夢売るふたり」の西川美和監督が直木賞候補にもなった自身の手による同名小説を映画化した「永い言い訳」、こちらも人気コミックが原作となっている「聲の形」、宮沢りえ主演で末期ガンを宣告された主人公が家族のために最後まで奮闘する姿を描く「湯を沸かすほどの熱い愛」、カルトな世界観が独特な個性を発揮していた「ライチ☆光クラブ」、多部未華子主演で、70歳過ぎのおばあちゃんが若い肉体を取り戻すファンタジー「あやしい彼女」、綾野剛主演で北海道警察の腐敗を描いた「日本で一番悪い奴ら」、迷子になった猫の冒険を描いたアニメ「ルドルフとイッパイアッテナ」、湊かなえ原作で死に魅せられた少女たちのひと夏を描いた「少女」、天才とうたわれながら病気により夭逝した実在の棋士・村山聖の姿を描いた「聖の青春」などなど、傑作揃いでした!


人気コミック原作モノの明暗

これ去年も同様のことを言っていたのですが、こちらの記事にもあるように、人気コミックを実写映画化することはローリスクでハイリターンが狙えるというカラクリがあったことが話題にもなりました。
そんな中、人気コミック原作の実写化がうまくいった例としては「アイアムアヒーロー」や「ヒメアノ~ル」、「ちはやふる」といったあたりでしょうか。

「アイアム~」と「ヒメアノ~ル」は、鑑賞後に原作を全て読んだのですが、ある意味原作以上の完成度とも言えるでしょう。「ちはやふる」も原作のテイストをうまく活かしている作品だったと思います。
「青空エール」も原作からの改変がいくつかあるそうですが、これも功を奏した印象です。

対してこれはどうなの?と思ったものも少なくありません。「テラフォーマーズ」「高台家の人々」「秘密 THE TOP SECRET」「4月は君の嘘」「ミュージアム」あたりが該当するでしょうか。
「テラフォーマーズ」と「ミュージアム」はその後に原作を読んだところ、映画化としては原作をなぞらえている部分もありますので、好みの問題もあるとは思いますが単純に物語としての魅力の弱さでしょうか。
「高台家の人々」「秘密 THE TOP SECRET」も原作を読みましたが、こちらは複数のエピソードから2時間分の内容を拾ってきているのでそのチョイスがうまくいっていないという印象でした。「4月は君の嘘」は原作未見なのですが、原作を読んだ方の感想からはこれもエピソードの選び方に問題があるように思われます。

そして、2016年最大級の問題作は「デスノート Light up the NEW world」でしょう。これは原作にはないオリジナルストーリーですが、原作のテイストだけさらって原作の魅力だった緻密な頭脳戦は皆無というデキで、10年前の実写映画化の成功とは裏腹に、原作の冒涜ともいえる作品だったと思います(原作ファンなので荒ぶってすみません)。

このようにとかく人気コミック原作の実写化の明暗がはっきりわかれた2016年でしたが、上記の理由により、今後も量産される可能性が大きいです。
原作者が尊重されるようになって、原作ファンも納得できるような作品ができることをつとに願いたいですね。


アニメ映画の一般開放

アニメといえば子ども(と、一部の大きなお友だち)のためのものという固定概念が取り払われたのも2016年の特徴ではないでしょうか。
それに一役買ったのはもちろん「君の名は。」です。
本作は若者のみならず多くの映画ファン、いやそれ以外の一般の方々もこぞって映画館に足を運んだからこそヒットに繋がったわけで、どうせアニメでしょ?という先入観をなくしてくれた作品でしょう。
これまでジブリしか見なかった人も、アニメ作品にも注目するようになったのではないでしょうか。
その後に公開された「聲の形」そして、現在じんわりとヒットしつつある「この世界の片隅に」が受け入れられた一因も、この"一般開放"が大きいのではないでしょうか。
2017年は伊藤計劃の傑作「虐殺器官」がついに公開される予定です。この余韻を受けて、多くの人に見てもらいたいと思います。


テーマは家族

「怒り」「海よりもまだ深く」「葛城事件」では家族そのものが描かれていますし、「アイアムアヒーロー」や「リップ・ヴァン・ウィンクルの花嫁」でもそれぞれのきっかけで一緒にいることとなった擬似的な家族が描かれています。
これは映画として描かれる根源的なテーマでもあるとともに、究極的に求められているのは人の絆なんだということを再確認させてくれる作品たちでもありました。
なんとなく実家に帰りたくなる、なんとなく人と会いたくなる、そんな気持ちにさせてもらえるのもまた映画の魅力の一つだと思います(一つ、家族が盛大に崩壊している作品もありますけど(;・∀・))。


というわけで、2016年は素晴らしい作品が多かった印象です。
2017年も素敵な作品に出会えることを期待しています!

「インフェルノ」から考える拡散的思考



「インフェルノ」では、「ダ・ヴィンチ・コード」から引き続き、ラングドン教授が与えられる謎を次々と瞬く間に解いていきます。
そのため観ている側からすれば、その謎が何なのかすらわからないようなタイミングで解かれてしまうので、展開についていくのがやっとになってしまいます。

ラングドン教授はなぜこのような謎解きが可能なのでしょうか?

人の思考のタイプとして、収束的思考拡散的思考という2つがあります。
収束的思考は、一つの正解にたどり着くための思考で、例えば、6 + 3 = ? といった計算のように、9という唯一の解答にたどり着くための思考を意味しています。
対して、拡散的思考は、 与えられた情報を多角的な視点で捉えたり、様々な発想を取り入れることで、新たな解答を導き出すもので、x + y = 9 といった計算のように、解答となるx,yの組み合わせが1つに定まるとは限らないような問題に対する思考のことを意味します。

いわゆる天才型と言われる人たちは、収束的思考よりも拡散的思考において優れているとされています。
この拡散的思考においてひときわ重要だと言われているのが、創造力です。

この創造性の重要さについて説いたのが、Guilford(1950)でした。
彼は、アメリカ軍に依頼されて戦闘機のパイロットを選ぶことになった際に、知能テストや性格検査、面接を通じて適任者を選抜しました。また、アメリカ軍は同様の依頼を元空軍の司令官にもしており、こちらではそれまでのパイロットとしての知識や経験を参考に選抜をしました。
結果、元空軍司令官が選んだパイロットの方が、Guilfordが選んだパイロットよりも撃墜されずに無事に帰ってきたそうです。
この結果にショックを受けたGuilfordは、その原因を調べるため元空軍司令官の選抜の基準を聞いたところ、質問に対して、マニュアル通りの回答をしたものを落とし、そうではない回答をした者を採用したそうです。
例えば、敵機の射程内に入ってしまった場合どのように逃れるか?という質問に対しては、「上昇する」というのがマニュアル通りなのですが、元空軍司令官はこの回答をした者ではなく、「下降する」「翼を左右に揺らす」「ジグザグに飛行する」などといった回答をしたものを採用したそうです。

これは、マニュアル通りの回答は、敵機からも推測しやすいものであるため、それよりも意外性の方を重んじて選抜した結果、撃墜されずに無事に帰還する割合が増えたということになります。

Guilfordはこの一件以降、創造性について研究をしていくことになります。

そこで彼は世界で最初の創造性のテストを思いつきます。
それが以下のものです。

「レンガの使いみちを15分間で50個考えなさい。」

たったのこれだけの問題です。
興味がある方はぜひ試してみてくださいね。



これでどうやって創造性を測っているのかと言うと、まずはもちろん思いついたアイデアの数です。
10個ぐらいならすぐに思いつくかもしれませんが、50個となるとなかなかおもいつかないのではないでしょうか?
もう一つは思いついたアイデアの内容です。
レンガといえば、「花壇や暖炉の縁取りに使う。」「かなづちがわりに使う。」「重しがわりにする。」など通常の使い方の範疇におさまるものばかり出てくる人はあまり創造性は高くないかもしれません。
「熱してフライパン代わりにする。」「武器として投げつける。」「長さを測るのに使う。」といった、通常の使い方を超えたアイデアを思いつく人は創造性が高いと考えられます。

創造性が低い人からすると、創造性が高い人のアイデアは突拍子もないものが多いのであっけにとられてしまうようなこともあるかもしれませんが、これは本作のラングドン教授の謎解きにも通じるものがありそうですね。パット見では一瞬で解いたかのように見えても、頭の中では複雑な思考が行われていたのかもしれませんね。

[引用]
Guilford, J. P.(1950). Creativity, American Psychologist, 5, 444-454.
プロフィール

Author:すぷーとにく0107
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中の人は、北海道は札幌市在住です。
映画館で年間200本は映画を観ます。
当ブログでは、映画のレビューをしつつ、勉強している心理学ネタでも書いていけたらいいなと思っています。

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