「この世界の片隅に」から考える共感によるコミュニケーション



「この世界の片隅に」は戦時中の呉を舞台にひとり嫁いできたすずとその家族を描いた作品となっています。
「君の名は。」のような派手さはなくとも昨年末の公開以来じんわりとロングランが続いているのが印象的です。

その要因はもちろん作品そのものの魅力もありますが、それを支えているのはやはり本作における戦争のとらえ方ではないでしょうか?

従来の戦争映画といえば、広島、長崎への原子爆弾投下に代表されるような市井の人々の戦争被害がメインであるものが多く、人々は空襲に怯え、物資の不足に苦しみ、大切な人を失ったことに悲しむ姿を映し出しています。
悲しみや恐怖の伝播によって戦争は良くないものだという意識を芽生えさせることはでき、それゆえ現在のほとんどの人が戦争に反対するというのも頷けます。

これは恐怖喚起コミュニケーションと言って、以前、コチラの記事(「メカニック:ワールドミッション」から考える正しい脅迫の仕方)でも紹介しております。

ただし、恐怖喚起の場合、特にその恐怖の度合いが強すぎると反発を生んでしまって逆効果となる場合もあります。
この恐怖喚起以上に影響力があるのが、共感によるコミュニケーションです。

米田・常深・猪原・楠見(2009)では、物語の主人公と読者の性格が一致しているかどうかによって、主人公の感情推測に違いがあるか比較したところ、性格が一致している場合の方が、より感情の理解が正確だったということが示されています。

主人公と自分の性格が一致していることで共感性が高まり、結果としてより理解が促進されたということになります。

「この世界の片隅に」の世界は、今とはかけ離れたものではなく、当時なりの日常を描いたことで、観ているものの共感を呼びやすい作品だったと思います。とりわけ、すずのようにおっちょこちょいだったりのんびり屋だったり、ちょっと天然だったりする人にはなおさら感情移入がしやすいのではないでしょうか?

そして、だからこそ日常を打ち砕いてしまうかのような存在として戦争の恐怖がより深く感じられるようになっているのだと思います。

本作はクラウドファンディングによる支援で公開にこぎつけたということもあり公開当初はマスコミが取り上げることもほとんどありませんでした。それがtwitterを始めとするSNSで話題となり、結果的にこのロングランにつながっているのが現状です。

このSNSや口コミによる伝播もまた共感性の賜物なのではないでしょうか?
SNSが当たり前に利用される時代になったからこそ、利害関係などとは関わりなく自分と同じ目線の人たちの意見を聞いたり、自分から発信したりできるようになったのですね。

[引用]
米田英嗣・常深浩平・猪原敬介・楠見孝(2009). 物語理解に及ぼす読者と主人公の性格類似性の効果. 日本心理学会第73回大会発表論文集.
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